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松山地方裁判所今治支部 平成元年(カ)1号 判決 1990年6月29日

主文

一  当裁判所が当庁昭和五五年(ワ)第一二三号立替金請求事件につき同年一一月七日言い渡した判決中の、被告阪東奉文(再審原告)に関する部分を取り消す。

二  右事件における原告(再審被告)の被告阪東奉文(再審原告)に対する請求を棄却する。

三  右事件の訴訟費用及び本件再審の訴訟費用はいずれも右事件の原告(再審被告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  再審請求の趣旨

主文と同旨

二  再審請求の趣旨に対する答弁

1  本件再審の請求を棄却する。

2  本件再審の訴訟費用は再審原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  再審請求原因

1  確定判決の存在

再審被告を原告、再審原告並びに訴外坂東サヨ子(以下「サヨ子」という。)を被告ら(ただし、再審原告は「阪東奉文」、坂東サヨ子は「阪東小夜子」とする当庁昭和五五年(ワ)第一二三号立替金請求事件(以下「原訴訟」又は「本案」という。)について、当裁判所は、「一 被告らは、連帯して、原告に対し、金二四万四三九七円及びこれに対する昭和五四年一二月三一日から完済に至るまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。二 被告阪東奉文は、原告に対し、金一一万二九七〇円及びこれに対する昭和五四年一二月三一日から完済に至るまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。三 原告の被告阪東小夜子に対するその余の請求を棄却する。四 訴訟費用は、これを三分し、その三分の二を被告らの連帯負担とし、その余を被告阪東奉文の負担とする。五 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。」とする判決(同判決中の再審原告に関する部分を、以下「原判決」という。)を昭和五五年一一月七日言い渡し、右判決は同月三〇日ころ確定した。

2  再審事由

原判決には、次のとおりの理由により、民訴法四二〇条一項三号の再審事由が存する。

即ち、原訴訟の訴状は昭和五五年一〇月四日送達されているところ、同日再審原告が不在であったため、同人の住所地において同居者である同人の四女宮原由希(原訴訟当時「坂東由希」、以下「由希」という。)が受領したが、同女は昭和四七年一二月三〇日生まれで当時七歳であり、補充送達における受領能力はなく、しかも同女が受領した訴状を再審原告に渡さなかったため、同人は、自らに対する原訴訟の係属及び進行を知らないまま、欠席判決により敗訴したものである。

3  よって、再審原告は、原判決の取消を求める。

二  再審請求原因に対する認否

1  再審請求原因1は認める。

2  同2のうち、由希が原訴訟の訴状を受領したことは認めるが、その余は争う。

由希は、再審原告の同居者として訴状の受領能力を有するから、原訴訟は適法に係属し、原判決も適法に確定した。

三  再審請求原因に関する抗弁

本件再審の訴えが提起された平成元年九月四日の時点において、原判決が確定した日から既に五年以上経過しているから、民訴法四二四条三項より、右の訴えは不適法である。

四  再審請求原因に関する抗弁に対する認否

右抗弁は争う。

民訴法四二〇条一項三号の再審事由による再審請求の場合には、同法四二五条により再審期間の制限を受けないから、再審被告の右抗弁は、主張自体失当である。

五  本案請求原因

1  再審原告は、次のとおり再審被告の特約店において商品を購入した。

(一) 昭和五四年三月三一日「サンセルコアマノ」において代金一〇万九〇〇〇円のハンドバッグ

(二) 同年六月三〇日「ダイキン工業株式会社」において代金一四万九〇〇〇円のクーラー

(三) 同年八月二〇日「サウンド福岡」において代金一一万円のカラーテレビ

2  再審原告は、右各商品購入の際、再審被告が各代金を各特約店に立替払することを承認し、再審被告に対し、次のとおりの約定で各金員を支払うことを約した。

(一) 右1の(一)については、代金に手数料一万二五三五円を加えた一二万一五三五円を分割の上、昭和五四年五月五日限り七五三五円、同年六月から昭和五五年一二月まで毎月五日限り各六〇〇〇円宛(一九回)

(二) 右1の(二)については、代金に手数料二万八三一〇円を加えた一七万七三一〇円を分割の上、昭和五四年八月六日限り九四一〇円、同年九月から昭和五六年七月まで毎月六日限り各七三〇〇円宛(二三回)

(三) 右1の(三)については、代金に手数料九九〇〇円を加えた一一万九九〇〇円を分割の上、昭和五四年九月三〇日限り一万二八〇〇円、同年一〇月から昭和五五年六月まで毎月末日限り各一万一九〇〇円宛(九回)

(四) 再審原告が右の各支払を遅滞し、再審被告から二〇日以上の相当な期間を定めて書面で支払を催告されたにもかかわらず、指定期日までにこれを支払わなかったときは、期限の利益を失い、残額の即時払を請求されても異議がない。

(五) 右の場合には、年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

3  再審被告は、前記各代金を各特約店に立替払した。

4  しかるに、再審原告は、右2の(一)については昭和五四年七月二八日までに一万九五三五円を支払ったのみで、その余の支払をせず、2の(二)及び(三)については一回も支払をしない。

5  そこで、再審被告は再審原告に対し、昭和五四年一二月一〇日到達の書面で同月三〇日までに遅滞金を支払うように催告したが、その支払がなかったので、再審原告は同日限り期限の利益を失った。

6  よって、再審被告は再審原告に対し、立替金及び手数料の残額(ただし、手数料については期限の利益喪失後の分を除く。)三五万七三六七円並びにこれに対する昭和五四年一二月三一日から支払ずみまで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

六  本案請求原因に対する認否

1  本案請求原因1及び2は否認する。

再審被告が主張する商品購入及び立替払契約は、再審原告の当時の妻であるサヨ子が再審原告の氏名を冒用して行ったものであり、再審原告は何ら関与しておらず、同女に対し代理権を与えた事実もない。

2  同3は認める。

3  同4のうち、再審原告が一万九五三五円を支払ったことは否認するが、その余は認める。

4  同5は否認する。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  再審請求について

1  再審請求原因1(確定判決の存在)の事実は当事者間に争いがない。

2  再審請求原因2(再審事由)について争いがあるので、次のとおり判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一ないし第五号証、第八号証の一、二、第九ないし第一一号証、第一三号証、第一五号証、第一六号証及び第一八号証、並びに再審原告本人尋問の結果を総合すれば、次のとおりの事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

再審原告は、サヨ子と昭和三八年ころ婚姻し、子供を七人もうけたが、同女が浪費癖のため再審原告に無断で借金を重ねたことから、同女と離婚したものの、その後子供のことを考えて同女と再婚し、それ以降も同女との離婚と再婚を繰り返し、昭和五七年に離婚して子供を引き取ってからは、同女とは音信不通であること、サヨ子は昭和五二年六月ころから同年一二月ころまでサラ金で知り合った主婦仲間三人とともに、合計一七回にわたり、福岡県内の貸衣装店から総計九五三万円の貸衣装を詐取してはこれを入質して換金するという犯行を重ね、昭和五三年三月ころ警察に摘発されたこと、昭和五四年ころ再審原告は厨房器具の販売修理会社で働いていたが、サヨ子には収入はなく、子供七人を養育して行くため、昭和五〇年一二月から継続して生活保護を受けていたこと、昭和五四年ころサヨ子は再審原告と婚姻中であったところ、同女が前記の本案請求原因1のとおり各商品を購入し、再審被告との間で同2のとおりの各契約を締結し、同4のとおりその約定金の一部を支払ったこと、右各商品購入の際のクレジット契約書には、主債務者として再審原告の名前が記載され、押印がされているが、再審原告が右各契約書に署名、押印したことも、サヨ子に対し右各契約の締結について依頼したり、承諾したりしたこともなく、再審原告は右各契約については全く知らなかったこと、サヨ子は右と同様の方法で同年一〇月に再審原告を主債務者にして二四七万円の借金をし、その返還請求訴訟を提起されたもののこれを再審原告に知らせず、無断で同人の代理人として貸主との調停を成立させたりしていること、同月四日原訴訟の訴状及び期日呼出状等が再審原告方に送達され、同居者であった四女由希(昭和四七年一二月三〇日生まれ、当時七歳)が受領したが、再審原告へは右の訴状等が渡されなかったこと、そのため、再審原告は自己に対する右訴訟の係属を、サヨ子が同居者として受領して再審原告にこれを渡さなかったことから、右判決はそのまま確定したこと、再審原告が原判決の存在を知ったのは、平成元年五月に再審被告から本件立替金請求の内容証明郵便を受け取り、驚いてすぐに相談に行った先の弁護士が調査した結果、原判決の存在が判明したことによること。

(二)  そこで、再審原告に対する原訴訟の訴状等を同居者であった当時七歳の由希が受領している点につき、同女に受領能力が存在していたか否かについて判断するに、民訴法一七一条一項の補充送達の場合において、送達を受ける同居者等に要求される「事理を弁識するに足るべき知能」とは、訴訟関与の機会を保障する送達の法的重要性に鑑みれば、司法制度や訴訟行為の効力まで理解する能力は必要ではないかが、書類送達の意義を理解でき、受領書類を送達名宛人に交付することを期待できる能力を有するものであることを要すると解されるところ、本件においては、七歳の由希が当時郵便物の意味について理解する能力を有していたことは認め得るとしても、受領した原訴訟の訴状等が栽判に関する重要な書類であり、これを送達名宛人に確実に交付すべきものであることを理解するまでの能力は備えていなかったと認めるのが相当である。

従って、由希には、再審原告の同居者として補充送達を受ける能力がなかったものであり、かつ再審原告自身がその後右訴状等の書類の交付を受けた事実も認められないから、再審原告に対する原訴訟の訴状等の送達は無効というほかないところ、右は民訴法四二〇条一項三号の代理権欠缺の再審事由に該当するというべきである。

3  再審被告は、本件再審の訴えが原判決確定後五年以上を経過してから提起されたものであるから、民訴法四二四条三項により不適法である旨主張するが、同法四二五条により同法四二〇条一項三号所定の再審事由による再審請求の場合には、再審期間の制限を受けないことが明らかであるから、再審被告の右主張は失当である。

二  本案請求について

前記認定のとおり、再審原告が再審被告との間で本案請求原因2の各契約を締結したことを認めることはできない。

三  結論

以上の次第で、再審原告の再審請求には理由があるので原判決を取り消し、再審被告の再審原告に対する本案請求には理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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